褥は献納品を載せる机などの上に敷く敷物で、「花机褥」、「経台褥」、「講座」などの墨書銘が示すように、机の上に敷くものもあれば、座具として用いられることもある。これらの褥は、用途に応じて内部に入れる芯の素材が異なる。机の上などに敷く上敷き用は、藺筵(いむしろ)や麻布を芯とし、表は華やかな錦を用いることが多いが、若干綾も使われている。また、夾纈(きょうけち)などの染物もみられる。多くの場合、裏裂には纐纈(こうけち)平絹をあてて仕立てられている。形は一般的に長方形が多く、正方形や円形のものもある。正倉院には献物几の形にあわせた八稜形などもみられる。長方形や正方形、八稜形などの褥には周りに別裂で縁をめぐらした縁付きの褥もある。
この褥は表が錦で、麻布を芯とした正方形に近い形をしており、麻布の四周には縁をめぐらした痕跡と縫い跡が遺っていることから、縁付きの褥であったことがわかる。錦は細かな菱文などによる幾何学文を連続してあらわした固い感じのする浮文錦で、当時の錦としては珍しく、淡い色調がさわやかですがすがしい。