方形、丸角の浅い被蓋造(かぶせぶたづくり)の箱で、蓋の甲をなだらかに盛り上げている。身の内左に水滴と硯を嵌(は)め、右には懸子(かけご)を収める。表面は全体を黒漆塗として、鉛平文(ひょうもん)・金薄肉(うすにく)高蒔絵・平蒔絵により、蓋表に葦の間に停泊する1艘の小舟、空に群れ飛ぶ千鳥を描いている。
この葦と小舟の図様は、西本願寺本『三十六人歌集』「重之集」の料紙にみられ、『玉葉和歌集』巻第6、前大僧正道玄(どうげん)「蜑小舟(あまおぶね)さしてみちくる夕汐のいやましになく友千鳥かな」を表す歌絵ともいわれる。さらに、謡曲「善知鳥(うとう)」にみる陸奥外の浜の情景という解釈もある。
箱の形体や千鳥の描写に若干古様な趣が認められ、光悦の蒔絵の中では、やや簡素な作風を示している。