ヨアン・ブラウ(1599?~1673)は、父ウィレム・ヤンソンとともに17世紀のオランダを代表する地図製作者で、華麗な地図帳や壁掛け地図を作成して名声を博した。本図は彼の作になる大型の壁掛地図で、30年戦争(1618~48)終結時のウェストファリア条約締結を記念して作られた。NOVA TOTIVS TERRARVM ORBIS TABVLA(新地球全図)という表題のもと、両半球図の他に天体運行図や古代の世界図などを配している。地図の下部にはオランダ語の世界地誌を載せるが、これを翻訳したのが桂川甫周の『新製地球万国図説』である。図の各所には事物を説明した墨書の貼紙がある。
宝永5年(1708)に日本に潜入し逮捕されたイタリア人宣教師シドッティ(1668~1715)を新井白石(1657~1725)が尋問した際、「阿蘭陀鏤刻の万国の図」を見せたところ、シドッティが珍しがったという逸話が、白石の著書『西洋紀聞』の中にあるが、この図に当るものが本図であると考えられている。明治11年(1878)、当時の陸軍砲兵工廠から博物局が展示のため借用後、明治42年(1909)に同所により寄贈された。世界的に見ても稀少な図である。