長方形、印籠蓋造の箱。折本装の経典を収納する箱として調えられたと考えられる。
蓋の甲面に大きく削面を取り、腰高な身と合わせている。表面には黒漆地に蓋身を通じて鎗金(沈金)の技法で文様が施される。蓋甲には花菱形を切った中に旋回する二羽の鳳凰を表し、身の長側面には同様に旋回する二羽の孔雀、短側面の一方には旋回する二羽の鸚鵡、そして他の一方には雲文の中に合掌する四比丘をそれぞれ表している。口縁及び稜角部分には青貝が施される。内面は朱漆で塗られており、表面の黒漆との対比が鮮やかである。
さて本品と同様の箱は、寸法や文様の若干異なるものを含めると、福岡・誓願寺、広島・浄土寺、広島・光明坊、九州国立博物館(福井・羽賀寺伝来)、福井・西福寺(京都・浄華院伝来)、京都・大徳寺、京都・妙蓮寺、京都・宝積寺に伝わっている。このうち、それぞれ同形同大で同形式の銘文を有し、制作年代や作者、制作地が同じと目される経箱として福岡・誓願寺、広島・光明坊、九州国立博物館のものが、作者の違うものとして広島・浄土寺のものが挙げられる。いずれも蓋裏の銘文から元・延祐2年(1315)に中国・杭州で作られたことがわかるもので、千字文の合印が刻されることから、複数の下請けを使って大量生産されたものと推測される。本品は銘文を有しないが、同様の制作状況が想定されてもよいであろう。
なお、千字文を使用することから本品を含む一連の経箱を一切経の箱とする説もあるが、字配りの問題等なお検討を要する。京都・高山寺伝来。