獅子(海獣)と葡萄唐草文を基本的なモチーフとする海獣葡萄鏡は、中国唐時代の7世紀から8世紀にかけて盛んに制作された。唐時代を代表する青銅鏡の一つで、日本にも数多くのものが輸入され、またそれに倣って作られた仿製鏡も相当数存在する。
この作品は、獣型の鈕(つまみ)のまわりに、葡萄唐草文を背景として2頭1組の獅子文が4組めぐっている。二重の突圏の外側には、パルメット唐草文帯、葡萄唐草文を地とする反時計回りの禽獣文帯、そして外縁のパルメット文帯と続いている。
文様は、およそ初唐期の海獣葡萄鏡の典型を示しているが、地金は、通例の唐鏡と異なり、黄色をしており、その上に錫メッキなどによって白銀色に仕立てたもののようである。また、通常、研磨や削りによって仕上げる鏡面に、そうした痕跡がまったく認められず、この点でも唐鏡の作法とは異なった点が見受けられる。これらのことを勘案すると、唐時代のオリジナルとみるよりも、唐時代の原鏡を後の時代に型取りして制作した、いわゆる踏返鏡(ふみかえしきょう)である可能性が高い。