有名な歌人を描いた、いわゆる歌仙絵の類品中現存最古の遺品。もとは藤原公任の『三十六人撰』にもとづく三十六歌仙と和歌神住吉明神を一図ずつに描き、それぞれに略伝と詠歌を添えた上下2巻の巻物であったが、佐竹家から出たのち、大正8年(1919)に切断分割された。
この一図は下巻の一部で、『拾遺集』の巻頭を飾る「はるたつと」の一首が添えられている。壬生忠峯は9世紀から10世紀にかけて活躍し、『古今和歌集』の撰者もつとめた。黒装束に、緌(おいかけ)を着けた冠を被り、武官らしいきりりとした面構 (つらがまえ)で、彼方を見やっている。精細に描き込んで個性的な表情を創り出す、似絵の流行を反映している。