こちらをじっと見つめる視線や、白髪まじりのぼさぼさの髪、伸び放題の髭。顔は痩せて骨ばり、ひたいには深い皺が刻まれている。この絵は日本の肖像画の中でも、ことに写実的で、生々しい印象を与える、たぐいまれな作品である。
しかし本図は肖像画の完成作として描かれたものではない。完成作に至る途中で作られた、顔の部分だけの素描や下絵というべきものなのである。当時の肖像画は、像主の全身を、絹に岩絵の具で彩色して描き出すのが通例である。本図のように紙に淡い彩色で、顔と肩までしか描かれていないという作品はほとんどない。
このように本来は肖像画の下絵だった作品としては、本図の他に「親鸞聖人鏡御影」や「白雲慧暁像」、長谷川等伯筆「妙法尼像」、渡辺崋山の諸作などがある。これらを見ると下絵の方が完成作よりも生々しく、写実的であり、筆致も生き生きとして魅力的である。この一休像も、そうした例外的な魅力ゆえに今日まで伝えられた稀有な一作といえるだろう。