本図は、経典をぎっしり積み込んだ笈を背負って、脚絆を着け、草履を履いた旅姿の僧を描いている。装置の上部には円形の大きな笠が被せられ、そこから香炉が吊り下げられている。僧は首に髑髏を繫いだ首飾りを下げ、腰には刀を差し、右手には払子、左手には経巻を持って、歩みを進めている。背景には、緩やかな稜線を見せる山並みが描かれている。こうした姿は、法を求めて中国から中央アジアの砂漠を越えてインドに渡り、インド各地を巡って多数の経巻を入手して中国に持ち帰った玄奘三蔵の姿を表したものといわれている。玄奘三蔵の像には、こうした旅装のもののほか、梵筐と呼ばれるインド式の折本の経典を手にした立像のものと、礼盤に坐す坐像のものと3種類があり、本図はそれら現存する玄奘像を代表的する優品である。目鼻や口の、生々しさを感じるほどの繊細な描写、肌の部分の輪郭線に褐色の色線を用い、それに沿って同系色の淡い暈を施して立体感を表現する描法、衣服や笈など主要部分に緑・群青・褐色といった寒色系の彩色を用い、そこに白色を多用した繊細な彩色文様や細部描写を施す点など、宋から元時代にかけての仏画、特に中国の寧波で制作され日本にも多く舶載されてきた、一連の仏画に通じる様式を色濃く反映した作例といえる。