日本航海図は、西洋流の測量術を用い、方位線を細かく配したポルトラーノ型と呼ばれる海図の一種。日本列島周辺のみを描き、国内の海運で利用するため、わが国独自に作成されたものである。現存例は少なく、特に羊皮紙に描かれたものは東京国立博物館所蔵と東京・三井文庫所蔵の2点しかない。
本図は、羊皮紙に胡粉を施した上に朱・藍などで彩色している。描画の範囲は本州・四国・九州と周辺の島々で、蝦夷は描かれていない。海岸部には浅瀬など航海に際して必要な情報も盛り込まれている。地名としては江戸、京、大坂の他に「駿河」が注記されており、本図の作成年代が徳川家康の駿府入り(慶長12年<1607>)以降であることが確かめられる。また、地名は、西日本に集中しており、東国・東北には全くみえない。港津(こうしん)名は中世以来の歴史をもつところがほとんどであることから、慶長12年以降、あまり下がらない年代の作成になると考えられる。