『和歌体十種』は、10世紀末から11世紀初めに成立した歌論書で、和歌を10体に分類して論じたもの。天慶8年(945)、壬生忠岑(みぶのただみね)著作ともいわれる。本作は、その現存最古の写本で、藍と紫の大ぶりの飛雲(とびくも)を漉(す)き込んだ料紙に、それぞれの体に五首の例歌が仮名で記され、漢文で説明がなされている。筆者は、江戸時代初期に古筆鑑定を家業とした古筆了佐(こひつりょうさ)が藤原忠家(ただいえ)(1033~91)と極めているが定かではない。ただ、仮名は整った字形を連綿にする巧みな筆遣いで、漢字は藤原行成の「白氏詩巻」(No.26)と類似した書風もみられ、当時活躍した能書(のうしょ)によるものである。昭和初年に安田家で巻子本が発見されて、昭和10年(1935)、旧国宝指定の時点では安田善次郎氏の所蔵だった。その後、高野家から文化庁に譲渡され、東京国立博物館へ管理換となった。
また、巻子本から分割された第7紙目(10体目)が掛軸装となっている。それは、平成6年6月に巻子本の国宝に追加指定され、平成9年に巻子本とともに当館へ管理換となった。この断簡は料紙の色が少し濃くなっており、さまざまな席で披露されてきたことが想像される。
(惠美)
『国宝 東京国立博物館のすべて:東京国立博物館創立一五〇年記念 特別展』毎日新聞社他, 2022, p.284, no.29.