蟹穴古墳は伊勢湾口に浮かぶ答志島に所在し、細い舌状台地の付け根部分に築かれた古墳である。周囲が崖状に削られており、墳形あるいは規模などは不明であるが、それほど大きな古墳とはならないだろう。横穴式石室を内部主体にもち、袖石付近から須恵器坏1個、須恵器台付長頸瓶2個が出土した。近年の再調査により、須恵器坏蓋や高坏の残片、鉄釘、耳環、金銅製透彫金具なども出土している。横穴式石室の形態や出土須恵器から古墳時代終末期(飛鳥時代)、すなわち7世紀中葉ころのものと思われる。本例は低い脚台をもった大型の長頸瓶である。頸部には2条ごとの沈線を3段に、体部中位には刺突文を施す。頸部から体部上半にかけて深緑色の自然釉がかかり、それが下方へ垂れ下がっている姿は、細く締まった頸部や少し肩の張る器形と相まって大変美しい。これほど大型の須恵器が、古墳の副葬品として完形品で残されることは稀であり、貴重な資料である。