天板に筆返しをもうけた3段の棚で、中段左に観音開の扉をとりつけ、下段右に引戸をつけて、収納部とする。いわゆる厨子棚の型式である。天板に根引きの松、上段に扇面夕顔、中段に御所車と白丁を描き、それぞれ『源氏物語』の「初音」「夕顔」「関屋」の帖を象徴的に表わしている。観音開の扉から引戸にかけては垣を表わし、下段に扇子、収納部の内面や棚の側面・背面には、楓と松の葉を散らす。技法は金銀高蒔絵を主体にして、螺鈿、金銀切金、錫平文を併用している。重要文化財「舞楽蒔絵硯箱」(東京国立博物館)、重要文化財「扇面鳥兜蒔絵料紙箱」(滴翠美術館)とともに、徳島藩主蜂須加家に伝来した。ただし大型作品のためか、両者より技術的にはやや大らかな部分がある。モティーフをクローズアップして捉えた構図、古典文学に取材した図柄など、光悦作とされる蒔絵の特色がよく現われている。