重要文化財菊棕櫚文様帷子きくしゅろもんようかたびら

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  • (指定名称)濃茶麻地菊棕櫚文様帷子
  • 麻(濃茶麻地 染・刺繡)
  • 丈155.1cm 桁62.7cm
  • 江戸時代・17世紀
  • 京都国立博物館
  • I甲402

 濃茶の地色を背景に、右袖から枝を伸ばし、両肩を覆うように天に向かって大きく開く花と、腰から裾へと、うつむき加減にやや控えめに開く花。ふたつの花は、背面に平仮名の「て」の形状に配されている。
 この特徴的な意匠配置からも明らかなように、この帷子は「寛文小袖」に分類される作例であり、寛文小袖を考えるうえで欠くことができない代表的な作品とされてきた。それというのも、寛文小袖という分類名称を生み出す源となった小袖雛形本『御ひいなかた』(寛文七年版)に、この帷子と近似する意匠が「きくにしゆろ」という注記とともに掲載されているからである。『御ひいなかた』の記述によってはじめて、この一見すると菊にしか見えない植物が、実は中心に菊花を置いてその周囲を棕櫚の葉で花びらのように囲んだ、菊と棕櫚の合成文様であったことが判明する。雛形本が当初から小袖の意匠見本として意図されていたことは序文からも明らかであるが、このように現存する作品と雛形本の意匠が一致する例はたいへん少ない。
 ところで、この帷子を子細に観察すると、いくつかの特徴を見いだすことができる。まず文様の表現技法であるが、寛文小袖の文様は絞り染と刺繍を主とするとされ、一見するとこの文様も、そのように見えるが、実はこの帷子の染め分けには、一部に糊防染が用いられたことが、裏面の観察から明らかにできる。また、幾つかの仕立て替えの跡は見られるものの、総体的にはかなりうぶな状態であり、衽下がりと立褄がいずれも短く、初期小袖の寸法に近い。さらに縫製では、裁ち目をすべて袋縫いにする点に注意したい。このような仕立ては、徳川家康着用の湯帷子(徳川美術館所蔵)にも見られ、古様な仕立てといえる。この帷子に見える特徴は、寛文時代の染色や仕立て技法のありようを示しているのである。

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