二面の鏡は古墳時代前期、4世紀頃に日本列島内で製作された倭鏡である。京都府向日市内の恵美須山古墳から20世紀初頭に出土した。両者は出土時から銹着していた。古墳内部で千五百年間ほども鏡面を接していたためとみられる。
大型の変形方格規矩鏡は面径24.0㎝。一般的な三角縁神獣鏡よりも大きい。文様はTLVの配列など漢代の方格規矩鏡を手本にするものの、Lが通常の反対向きであり、その地文様にある四神像や獣像は退化して、細線による渦巻状の文様や茄子形の胴体にくちばしをもつ獣像として表現されていて、中国漢時代からの文化的時間的距離が遠いことを示している。古墳時代に見られる「銅鏡の和様化」である。この鏡で特筆されるのは鏡面側の周縁に文様帯をもっていることである。文様帯の幅は1.9㎝、菱形が22個連なって破たん無く納まっている。本来鏡背面にあるべき周縁文様が施すべき余地を失い、しかたなく鏡面に回り込んだのであろう。古代東アジアの銅鏡で鏡面にまで文様を施した例はほかにほぼ同形同文様の銅鏡一面があるだけであり、極めて珍しい。
小型の変形獣文鏡は面径13.8㎝。内区の渦巻文は獣像四体を入れる場所だが、原形を想像できないほど変形している。この小型の変形獣文鏡はその渦文の雰囲気が共通することから接着している大型の変形方格規矩文鏡とほぼ同一の工房で近接した時間内に製作された可能性が高い。