中国の景徳鎮窯が隆盛を誇った明時代、16世紀後半に焼かれた五彩磁器。赤の上絵付けを基調とし、そのうえから金彩を施した華やかなこの種の製品は、碗皿をはじめ、壺、水注のほか文房具など、種類多岐にわたる。これらは中国国内の需要のみならず、ヨーロッパや日本など国外へ向けて輸出されたことが知られる。この当時の陶磁器に付された金彩は剥がれやすいという難点があるが、日本には金彩の状態がきわめて良好な伝世品が多くのこる。おそらく、安土桃山時代以降、茶人や豪商のあいだで珍重されたものであろう。九州の有力な戦国大名であった大友氏の菩提寺、万寿寺跡(大分市)からは破片が出土している。
本作品は、瓢形で下半分を四方とした大型の瓶である。瓢の膨らみの上部、下部ともに四方に窓を設け、赤地に金彩で花卉、人物図らしき文様を表わす。赤で塗り込めた頸部にも金彩で唐草文を施す。窓の周囲は赤の上絵具の七宝繋ぎ、毘沙門亀甲で細やかに埋める。肩の四方には丸文を配し、福寿康寧と金でそれぞれ一字ずつ配している。底は平底で中央円形に青花銘「富貴佳器」を記す。
日本ではこのような華麗な器を高価な染織品にたとえて「金襴手」と呼び親しんできたが、なかでも本作品は他に類を見ない壮麗さをそなえた優品である。