准胝という変わった名前は、インドの古い言葉で「促す」「鼓舞する」という意味がある動詞から生まれた「チュンダー」という名称に、漢字の音をあてたものです。修行者が自らを励まし、奮起させるための呪文を偶像化したものと考えられています。日本の仏教の流派の一つである密教では過去に数え切れない多くの仏を生み出した母ともするためか、子宝や安産などを願う儀式の願いをささげる対象として彫像や絵画が作られました。
現存する作例自体、日本では多くはありませんが、ほとんどが鎌倉時代以降のものである中で、この画像は数少ない平安時代の制作になる貴重な作例です。准胝仏母像は、細身ながらも締まった張りのある肉感的な体つきと、しなやかで妖艶ささえ感じさせる左右にそれぞれ9本ずつ伸びた腕が、強く異国風を感じさせる姿に描かれているのが大きな特徴です。また蓮華座の下の周囲には柔らかくボリューム感のある牡丹のような花と葉があしらわれたほとんど例のない表現がなされ、さらに台座の背景は点の集まりで描く点描の手法を用いて、中国・南宋時代の僧侶像の衣服の文様によく見られる丸を重ねた模様が使われています。平安時代の仏画特有の優美な表現を見せながら、随所に異国風を感じさせる要素をもった作品です。