中世に用いられた甲冑のうち、右脇を引き合わせとした胴丸と呼ばれる甲冑。胴は黒漆を塗った革と鉄の小札を交互に組んで、縹糸で威している。縹糸は藍染め糸の一種であるが、花田糸とも書き、一説に露草の花で染めたところからついた名ともいわれる。兜はあこだ瓜に似るところから阿古陀形と呼ばれ、三十八間の筋と腰巻の囲垣に鍍金の覆輪をかけて飾る。金具廻りは、赤銅製の菊枝文透彫りで、菊花は金の薄板を被せた色絵である。胴のゆったりとした形状や、兜の形式から、室町時代中期のものとみなされる。江戸後期に松平定信が編さんした『集古十種』の甲冑部に収録された胴丸で、もとは那須与一で有名な那須家に伝来したことが知られる。金具廻りにつく「一に菊花」の紋は、現存する那須家家紋の最古例である。