『北山抄』は藤原公任(九六六~一〇四一)の撰した儀式書で、全十巻からなる。宮中における年中行事、官吏の事務などについて記し、後世まで先例を調べるさいの参考として重視された。各巻の成立事情は異なるが、部分的には、息女をつうじて縁戚関係にあった藤原道長、あるいはその子・教通の関与が指摘されている。
本巻はそのうちの巻第十、国司の諸務についてのべた「吏途指南」で、公任の自筆にかかる現存唯一の草稿本。料紙には文書の反古が二十五通用いられており、公任が検非違使別当に在任していた長徳から長保年間(九九五~一〇〇四)のものが多く、仮名消息はよく知られている。同書の成立過程のみならず、公任の人間関係や筆跡を知るうえでも重要といえる。もと、三条家伝来。