『梵網経』は、詳しくは「梵網経盧舎那仏説菩薩心地戒品第十」といい、上下二巻からなる経典である。本巻は、首題にも「第十下巻」とあるように、その下巻であり、大乗菩薩戒を説く根本経典として重要視されたものである。それは、十重四十八軽戒という戒を説くものであり、後に最澄が比叡山に大乗戒壇建立を願ったのも、この経典に基づくのである。奥書より、これが天平勝宝九年に僧霊春が願主となった、いわゆる「知識経」であることが知られる。本文中には、主に平安時代後期の白点・朱点・墨点が施されており、訓点資料としても重要な一巻である。