細い帯状の縬(しじら)地に、刺繍で菩薩などをあらわした繍仏の図様には数種類がみられる。天衣(てんね)を頭上に大きく翻し、蓮華座に坐す菩薩と、同じく蓮華座にのる火焰(かえん)宝珠と雲などを配したもの。同じく天衣を頭上に翻して蓮華座に坐し、琴や横笛を奏でている奏楽天人。菩薩をあらわさず火焰宝珠と雲、パルメットをあらわすものがある。
繍仏はいずれも強い撚りのある刺繍糸を用い、継ぎ針繍(つぎばりぬい)という技法で刺繍された精巧な両面刺繍である。飛鳥時代の刺繍は、強い撚り糸で図様の輪郭線を縁取り、内部を細かく密に刺繍するのが特徴で、撚りのない釜糸(かまいと、撚りをかけていない引き揃えの糸)を使う奈良時代の刺繍とは一線を画している。
これらの繍仏の下地裂の幅に注目すると、12㎝前後の広幅のものと7㎝前後の狭い幅の2種類がある。両者とも両側に織耳(織物の両端)が遺っており、当初からこの幅として特別に織られたものである。広幅の繍仏は、法隆寺献納宝物の金工品を代表する国宝「灌頂幡」(N-58)の中央に吊された大幡の幡足として、狭い幅の繍仏は天蓋四隅に付けられた小幡の幡足として用いられたものである。ちなみに、当時の錦や綾・平絹などの織幅は、特殊なものを除いておおむね56.0㎝前後である。
なお、これらの繍仏6枚のほかに、未整理の残欠が附として一緒に指定されているが、指定後の整理・調査の過程で、繍仏の残欠が小片も含めて8点確認され、それらはいずれも修理が行なわれて列品として活用されている。また、中には繍仏とは別な染織品も3点確認されており、附属として整理されている。