縄文時代の仮面は現在までに140点ほど発見され、土製が約120点、貝製が約10点、石製が数点見つかっているものの、土偶と比べて圧倒的に数は少ない。土面は後晩期の北・東日本に数多く出土し、晩期の土面のうち遮光器土偶と目の表現がよく似た一群が東北地方でみられる。
本例はその一つで、大きくデフォルメされた目は遮光器土偶とよく似るものの、口の表現は異なっている。また額や頬は磨消縄文手法(すりけしじょうもんしゅほう)を用いた入組文に三叉文(さんさもん)が加えられて飾られる。この一群の土面は10cm程度と小型で顔を覆うには小さく、そのため額にあてたり、または手に持ったり、胸に下げたりして儀礼に使われたと考えられている。土面は縄文時代の儀礼の豊かさと、精神文化の広がりを知るための好材料である。