方形、角切、蓋の肩を削面とした被蓋造の箱で、身の内左半に水滴と硯を嵌め、右側に懸子を収めており、ほぼ伝統的な硯箱の形式をとっている。蓋表に鉦鼓・鳩杖と鳥兜を被った舞人の後姿、蓋裏に扇と舞楽装束、懸子と懸子下には鳥兜と笙と、蓋の表裏から見込みにかけて、舞楽にまつわる事物を表わす。図柄はいずれも、モティーフをクローズアップして捉えた大胆な構図である。金高蒔絵、螺鈿や金銀切金、金金貝などを用いて、装束の文様や扇面画などまで、緻密に描いている。さらに金棒や鉛板の象嵌、金鋲を交えるなど、材料に凝っており、光悦蒔絵としてはやや技巧が勝った印象がある。重要文化財の「扇面鳥兜蒔絵料紙箱」(滴翠美術館)、「子日蒔絵棚」(東京国立博物館)とともに、徳島藩主蜂須賀家に伝来した。