表面は全体に黒漆を塗り、淡い梨子地に仕立てている。蓋表には、金の高蒔絵を主体にして鬱蒼と樹々の茂る山を描き、銀金貝により月を表わす。山中には、一際大きく描いた花枝を配し、花の名所「初瀬山」を暗示している。『新続古今和歌集』巻2「はつせやま花に春風吹きはてて雲なき峰に有明の月」などの和歌による意匠であろう。
モチーフを大きく表わした斬新な文様構成には、近世を迎えて花開く自由な感覚が認められる。山や樹木に用いた金の高蒔絵と月を表わした銀の薄い板は、色調及び立体性において、見事に対比的な表現となっている。