日本の鞍は、騎乗者が腰を乗せる居木(いぎ)、その前にたてる前輪(まえわ)、後ろに立てる後輪(しずわ)の三部からなっており、乗馬の際は、これに鞍褥(くらしき)などのクッションをつけて用いていた。世界に類を見ない独特の構造である。
表面は全体を黒漆塗とし、比較的に薄手の夜光(やこう)貝を花や葉、枝などの型に小さく切り抜き、それらを巧みに組み合わせて文様を表わす。精緻な技巧を凝らしているわけではないが、いかにも素朴な味わいをもっている。いかにも藤原時代風の優美なデザインを特色とする、日本の鞍の代表的な作品である。