木板に金銅の鏡板を貼り、周縁に覆輪をつけ、縁近くに1条の圏線をめぐらして内外両区にわけている。内区の中央には蓮華座に坐す鋳銅鍍金の聖観音像を据え、背には唐草透彫の舟形光背、頭上は垂飾を下げた八葉蓮華形の天蓋、左右に花瓶一対を配している。懸仏は平安時代に隆盛した鏡像が立体的表現へと進んだものであるが、このように尊像の他に附属物が多くなるのは、鎌倉末期以降室町時代にみられ、これはその早い作例である。鏡板裏面の地板に墨書銘がある。
「奉懸 観世音菩薩御正体/右志者為現世安穏後世善処/寺中繁昌山内泰平乃至/法界衆生平等利益也/建治元年五月十五日/信心大法主僧祐慶/敬白」