鰐口・磬ともに、仏教の法会などで用いられる楽器(梵音具<ぼんおんぐ>)である。いずれも両肩の部分に紐通しのための鈕(ちゅう)をもうけ、吊るして打ち鳴らす。
鰐口は扁平な円形で、中は空洞に造り、側面下半分が切り込み状に口をあけている形状が鰐の口のようであるため、この名がある。本鰐口は銅鋳造、両面の中央に梅鉢形の撞座、その周囲に唐草文様を鋳表している。片面側に「極楽寺長保三年辛丑」「願主判官代高向朝臣弘信」の銘文を刻記している。
磬はもともと古代中国の楽器で、その字のつくりが示すように石や玉で造られ、形は「へ」の字で、複数枚を並べ吊るして打ち鳴らしたものが、仏教に取り入れられたとされる。平安時代以降は、「へ」字から転化した山形がほとんどとなるが、中には蓮華や蝶をかたどった例もある。本磬は、羽を広げた蝶をかたどった珍しい形をしている。銅製鋳造で、中央に梅鉢形の撞座、その周囲に唐草文を鋳表している。両肩には、吊るすための紐を通す鈕があったとみられるが、現在は欠損しその痕跡が残る。
この鰐口と磬は昭和14年、長野県松本市宮渕出の城山から、扉金具とともに出土した。梅鉢形の撞座や唐草文は両者共通しており、極楽寺の梵音具として、長保3年(1001)同時に制作されたと判断される。いずれも年記を有する例としては、現存最古となる貴重な例であり、両者一括で重要文化財指定となっている。
なお同時に出土した扉金具も、本件の附(つけたり)として指定されている。