『金剛峯楼閣一切瑜珈瑜祇経』に説く、獅子冠をかぶり3つの目と6本の腕をもつ愛染明王。真赤な身色も、経典に日が輝く如しと説くことを典拠とする。めらめらと燃えるかのように逆立つ焔髪、眉を吊り上げ睨みつける目、牙をみせて開く口で怒りを表わす。目に水晶の板を嵌め込む玉眼という技法が迫力を出すのに効果的である。左肩にかける条帛、下半身に着ける裙には、截金(線状に切った金箔)による文様がのこる。愛染明王は金剛薩埵菩薩の化身なので怒りの顔も卑しくない。
内山永久寺に伝来したことが知られ、検討の余地を残すものの、『内山之記』にある薬師院安置の雲賀造像像と考えられる。彫刻作品としてのみならず、厨子の絵画や色紙形の書、金属製瓔珞(ようらく)の細工など、総合芸術として貴重な作品である。
普通、愛染明王は中段左手に弓、中段右手に矢を持つが、本像の中段左手は持物を取る仕様になっていない。