国宝納涼図屏風のうりょうずびょうぶ

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  • (指定名称)紙本淡彩納涼図
  • 久隅守景筆 (くすみもりかげ)
  • 2曲1隻
  • 紙本墨画淡彩
  • 149.1×165.0
  • 江戸時代・17世紀
  • 東京国立博物館
  • A-11878

 晩夏の夕べ、粗末な小屋の傍らに竹で組まれた棚には瓢簞(ひょうたん)の実が下がり、筵(むしろ)を敷いて三人の家族が涼みながら無言で白い満月を見つめている。おぼろな月の周りは暗く、間もなく夜のとばりが落ちてくることを知らせている。近くに小川の流れがあるのか、砂利が細かく描かれて一筋の涼風も感じさせる。三人の身なりは貧しいが、寝そべる男は武士の気概を感じさせるような凛とした表情である。
 三人の輪郭線や月、竹竿などのモチーフがすべて異なる筆法で描き分けられていて、卓抜した画力が遺憾なく発揮されている。作者の守景は生没年など不詳であり謎めいた江戸時代初期の絵師である。徳川将軍家に仕え、当時の画壇に君臨した狩野探幽(かのうたんゆう)(1602~74)の高弟で、門下の四天王の一人として知られたが、師から破門されたとも、加賀藩に仕えたとも伝えられている。
 守景は農村の人びとの暮らしの姿をしばしば描いたが、その主題はそもそも武士が領民のつつがない暮らしを守り、自らを戒(いまし)める「鑑戒画(かんかいが)(勧戒画)」として描かれたものである。つまりこの絵は武士の注文によって描かれたものであり、守景が武家に仕える絵師としての矜持(きょうじ)をもって筆を揮ったといえる。
 一日の労働の後、清涼を求め家族でくつろぐひとときの光景であるが、暑気ではなく、もの悲しさを感じさせる。守景の子も絵師であったが、息子は不行跡がたたり佐渡に流され、娘も父のもとを離れたようだ。この絵を見ていると、夫婦とその子というよりも、父をはさんで寄り添う二人の子への守景の思いが込められているように思えてならない。

(松嶋)
『国宝 東京国立博物館のすべて:東京国立博物館創立一五〇年記念 特別展』毎日新聞社他, 2022, p.281, no.19.

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