桃山文化の息吹を色濃く宿した、野外遊楽図の代表的作例。描かれているのは、桜と海棠(かいどう)の下で繰り広げられる、春爛漫の花見の宴である。画中に捺された印章から、作者は狩野永徳の末弟にあたる長信(1577~1654)に比定されている。
左隻に配されるのは、堂宇の前での風流踊りと、縁側でそれを眺める人びと。男装姿の女性たちは、慶長年間(1596~1615)初めに出雲阿国(いずものおくに)が始めた歌舞伎踊りを舞っている。当時の最新ファッションを表わした華麗な衣装と、呼応関係を結び合う軽やかな舞の群像表現は、本作の大きな見どころである。
右隻には、満開の桜の下で酒宴を催す女性たち。中央二扇は関東大震災で失われたが、残された写真や模写から、当初の図様を確認することができる。中心に位置する敷物に座る高貴な女性は、特定の人物を描いたものと想定され、本作の発注者も彼女ないしその近辺の可能性が高い。
明治期の実業家原六郎(はらろくろう)(1842~1933)の旧蔵品であるが、それ以前の伝来は知られない。当館には昭和43年に収蔵された。
(高橋)
『国宝 東京国立博物館のすべて:東京国立博物館創立一五〇年記念 特別展』毎日新聞社他, 2022, p.280, no.17.