洛北の高雄山(たかおやま)東南麓を流れる清滝川(きよたきがわ)に沿うあたりは古来、紅葉の名所。菊や萩、芒(すすき)、龍胆(りんどう)、桔梗(ききょう)、藤袴(ふじばかま)などの秋草が咲き誇るなか、画面右では白い布で頭を包む桂包(かづらづつみ)(鬘巻(かつらまき)、桂巻ともいう)の女性たちが胡座(あぐら)で酒や茶を楽しみ、おしゃべりに夢中のようだ。笠を被る女性は子に乳をやり、辻ヶ花染めを施した片身替わりの小袖で着飾っている。左では鼓を打ち、謡って舞う武士たちが車座になって酌み交わしている。川にかかる橋の上で二人の男が尺八(しゃくはち)や笛を吹き、手前には美しい小童の喝食(かつじき)を連れて誇らしげな黒衣の禅僧が立つ。応仁(おうにん)の乱(1467~77)の後、戦乱の世が続く秋の一日に、さまざまな人びとがつかの間の平穏なひとときを謳歌している。
画面の右上に多宝塔が立つ神護寺(じんごじ)が見え、左上には雪深い参道が愛宕(あたご)神社に続く。秋冬の情景を描いたこの屛風は、もとは春夏の風情を描いたもう一隻(あるいは吉野山の桜の光景)とともにあって四季の名所絵が描かれていたともされる。
この屛風は土佐藩士で、明治時代に政治家として活動した福岡孝弟(ふくおかたかちか)(1835~1919)の所蔵品であったが、孫の孝紹(たかつぐ)氏から「松林図屛風」などとともに、東京国立博物館が同時期に購入したものである。
(松嶋)
『国宝 東京国立博物館のすべて:東京国立博物館創立一五〇年記念 特別展』毎日新聞社他, 2022, p.279, no.14.