歴史の教科書や切手などにも使用される著名な山水図。右幅では、手前から奥へと岩組が交互に配されて整理された構成を取るのに対し、左幅では、大胆に切り取った懸崖の垂直線を中心に景物が複雑に重ね合わされ、抽象度が強い。南宋の宮廷画家・夏珪(かけい)の様式に準じて描かれたものだが、力強くも荒っぽい筆致や、構築的で堅固な画面構成などには雪舟らしさが存分にみてとれる。
一方で、不明確な要素を多々含む、性格づけが難しい作品としても知られる。たとえば季節ひとつとっても、雪景色を描く左幅が冬を示すのは明らかだが、右幅には秋を示す目立った特徴はなく、明治期には「夏冬山水図」と呼ばれていた。また近年では、画面右下に描かれる梅の古木の描写から、「春冬山水図」と呼ぶべきとする見解も出されている。
また、鑑賞形態や制作目的についても諸説が分かれる。主要なものとして、四幅一対の四季山水図のうち二幅のみが残ったとみる説、画帖や貼付屛風に用いられたとみる説、大内氏館の襖絵(ふすまえ)制作のための見本として描かれたとする説などが挙げられる。なお、本作は昭和11年に京都・曼殊院(まんしゅいん)より購入された。
(高橋)
『国宝 東京国立博物館のすべて:東京国立博物館創立一五〇年記念 特別展』毎日新聞社他, 2022, p.279, no.13.