日本に水墨画が定着した室町時代、絵の余白に多数の漢詩文を書き付けた「詩画軸(しがじく)」が禅林で流行した。本作はその典型を示す作として著名である。
画面最上部には、京都・南禅寺(なんぜんじ)に住した竺雲等連(1383~1471)が序を付しており、その冒頭に「竹斎読書図詩軸序」とあって、この時代には珍しく制作当初の作品名称が知られる。序の下方には、当代を代表する五山(ござん)僧五名がそれぞれ題詩を寄せている。
山水の描写は、片側に重心を寄せた対角線構図をとり、濃墨による2本の松樹と巨岩を主景とする。その手前の橋上には従者を連れた旅人、さらに背後には竹林に囲まれた草庵が淡い筆致で描かれている。室内に書物を開く人物がいるが、賛者の関心もこの部分に集中しており、本作の命名の由来となっている。
画面右下には、日本の山水画様式の確立者としてその名が知られる天章(てんしょう)周文(生没年不詳)の印章が捺されているが、後印である可能性も否定できない。ただし、濃墨と淡墨とを効果的に使い分け、大気や遠近を巧みに表現した本作は、応永期(1394~1428)の初期詩画軸と比較して各段に整理が進んでいる。周文様式を考えるうえで最も重要な作例の一つととらえられてきたのも、こうした洗練された作風にもとづくといえる。
(高橋)
『国宝 東京国立博物館のすべて:東京国立博物館創立一五〇年記念 特別展』毎日新聞社他, 2022, p.278, no.11.