本作品は、日本の仏教美術における美的感覚と技巧が、繊細さと洗練の度を最も極めた平安時代後期、12世紀の仏画の傑作として知られる作例である。描かれるのは、『法華経(ほけきょう)』に説かれる普賢菩薩の姿。虚空に浮かんだ華でできた笠(かさ)状の覆い(華蓋(かがい))から、宝相華(ほうそうげ)が舞い降りるなか、六牙(ろくげ)の白象(びゃくぞう)に乗って東方の浄妙国土(じょうみょうこくど)から今まさに現れ来った姿を描いている。
明治22年(1889)の帝国博物館(現東京国立博物館)設置に伴い、翌年に整備された統合基本台帳から現在まで引継がれる台帳番号(列品(れっぴん)番号)は絵画の1番であり、昭和25年制定の文化財保護法にもとづく国宝指定でも絵画の1番で、まさに東博、ひいては平安時代絵画を代表する作品として位置づけられている。
それほどの名品ではあるが、伝来については、明治11年に奈良のある古刹(こさつ)から博物館の一小吏・山辺某が十何円かで購入したという内容が関係者に口伝えのような形で伝えられるのみで、購入以前の伝来は知られていない。
公に美術史上に登場するのは、パリ万国博覧会参加を機に編纂された日本初の公式日本美術通史『稿本日本帝国美術略史(こうほんにほんていこくびじゅつりゃくし)』(1901年刊)での紹介が初と考えられる。
(沖松)
『国宝 東京国立博物館のすべて:東京国立博物館創立一五〇年記念 特別展』毎日新聞社他, 2022, p.276, no.2.