大般若経1部600巻を2基に分納した黒漆塗円筒形厨子。元上賀茂社御読経所安置で、後に京都・神光院〈じんこういん〉に移り、現在、当館とクリーブランド美術館に1基づつ分蔵される。2基とも同形式で、八角二重蓮華座上に円形の十六弁蓮華座をのせ、その上に円筒形の軸部を置く。軸部内にも十六弁蓮華形の置台をのせ、軸部は前方半分を観音開き扉とする。屋蓋は八角形で、軒下に中台八葉院〈ちゅうだいはちよういん〉のように葉と葉の間に三鈷杵を置く八葉蓮華を刻出し、頂に擬宝珠〈ぎぼし〉をのせる。扉にはそれぞれ四善神を描き、2基で大般若経の守護神の十六善神が表される。彩色は鮮やかで截金〈きりかね〉をふんだんに用いている。平安仏画の趣致とも通ずるが、像容は同時期の十六善神の図像とは異なり、異国風の着甲から見て唐本によった可能性もあろう。軸部奥壁に阿弥陀と釈迦の種子を表し、天井には天蓋〈てんがい〉を飾っている。奥壁の痕跡から各厨子とも経巻300巻を100巻ずつ3段に安置したものと推測される。円筒形の軸部に擬宝珠のある屋蓋をのせた姿は平安時代の経筒に近似しており、平安時代の経荘厳のありかたを伝えており興味深い。なお、当館所蔵の厨子には大般若経166巻が付属している。