堅好無隙〈けんこうむげき〉の白檀の木肌の色と、その芳香を貴んだ檀像彫刻で、大きな頭部と膝下が短い形姿は小像特有の表現があらわれている。細身の体つきではあるものの、両臂〈ひじ〉を外に張って腕をゆったりと下ろす動きには、平安初期の充実した気風が感じられる。目鼻立ちが大ぶりであり、面奥〈めんおく〉が深い造形感情は小像とはいえ同時代の新薬師寺薬師如来像の威風〈いふう〉に通じるといえるだろう。
装身具・持物〈じもつ〉・天衣〈てんね〉など、身体から遊離した部分も本体と共彫りされ、精緻に鏤刻されている。わずかに髻〈もとどり〉の大半(後方)、右前膊〈ぜんぱく〉から先、瓔珞〈ようらく〉の一部などに別の小材を矧ぐ。頭髪(群青)、唇(朱)、眉目(墨)、瓔珞(朱と青)に彩色を施し、衣の縁と水瓶〈すいびょう〉に金泥〈きんでい〉で文様を描くほかは、彫刻の木肌は素地〈きじ〉のままとする。台座の反花〈かえりばな〉および框〈かまち〉は本体とは別材で、蓮弁〈れんべん〉表面の花飾も小材を留める。
十一の頭上面〈ずじょうめん〉は左面を除いて温顔であり、さらに右の三面は下牙を表しており、十一面観音経のなかでも北周の耶舎崛多〈やしゃくった〉の第一訳や唐の阿地瞿多〈あじくった〉の第二訳に記された「菩薩面に似て、狗牙〈いぬきば〉を上向きに出す」の規定に形の典拠が求められる。一方、左側の頭上面は天王の顔に似た怒顔〈どがん〉にあらわされ、唐の玄奘訳(第三訳)の「瞋怒面〈しんぬめん〉」に対応すると考えられる。つまり、本像の頭上面は旧訳本を基本としながらも一部新訳本が採用されていることに留意されるのである。