山城国綴喜(つづき)郡(京都府八幡市)にある石清水八幡宮社頭の光景を描いた宮曼荼羅(みやまんだら)である。男山とは同宮所在の鳩ケ峯(はとがみね)の別称(標高約143メートル)で、古来よりその独特の姿形が愛され歌枕としても知られている。
中央に本殿三神と摂社四神を本地仏(ほんじぶつ)の姿で描く。上段には阿弥陀(中御前(なかごぜん))・観音(東御前)・勢至(せいし)(西御前)の三尊を安置し、その下方には石畳をはさんで向かって左の上か阿弥陀(武内社(たけうちしゃ))と勢至(高良社(こうらしゃ))、右の上から十一面観音(若宮社(わかみやしゃ))と普賢(若宮殿社)を配している。実景とはやや異なるが、参詣人や本殿屋根に神使(しんし)の鳩を描き、鎌倉時代末期の社頭の雰囲気を生き生きと伝えている。天正16年(1588)の軸裏修理銘には文明II年(1479)の修理銘が転記されており、これによると、本作は石清水八幡宮を氏神とする公卿の久我家(くがけ)が毎月11日に行われた八幡講の本尊として石清水八幡宮に寄進したものという。明治の元勲にして古美術品収集で知られた井上馨(いのうえかおる)の旧蔵品。