左手から川が流れ、その下辺に牛が憩っている。画題の犢の文字は小牛を意味する。流れの上方には、1人の人物が水辺に坐して釣り糸を垂れている。放たれた牛といい、また釣人といい、労働から解放された悠々閑々とした情景を示すものである。川辺には樹林が茂り、畠が作られ、彼方にうっすらと山影が見える。描写は線を排し、水墨を豊かにかつ巧みに用いて長閑な情景をゆったりと表現している。樹木はいわゆる無根樹と称される特徴ある姿である。
図中には「高然睴」の印があり、図の筆者伝称がよって生じるところであろうが、これは後捺であろう。
水墨の用法、樹法からは米法(べいほう)山水を得意とした画家によって描かれたものとみられるが、わが国では将来されたこの種の米法山水画を高然睴と鑑識していたことは事実であり、本図はそのような山水画の影響をかなり受けている。構図はやや特殊ながら、高然睴画中の佳品であり、かつ平山処林の賛を有しており、将来中国画中注目すべき一作ということができる。
なお本図は平山処林の賛によってその制作の時期をほぼ元末と定めることができる。