羅稚川は元時代前期の文人画家。臨川新喩(江西省清江)の人。中国の画史書等には記録されず、その詳細な伝歴は不明であるが、同郷である元の范徳機(-1330)等との交友から、その活躍期は至正以前、後至元(1335-40)年間頃までといわれる。
本図は荒涼とした寒林平遠の景を描いた羅稚川の数少ない作例で、北宋の寒林平遠図の形式をふまえた元時代李郭派の画風を示している。前景部中央に複雑に屈曲する老木と左方に連なる枯木、さらに枯葦や樹枝に棲息する鳥、あるいは寒空をとびかう一群の鳥などが注意深く表現され、ほとんどが水墨によって仕立てられた世界の中で、枯葦と竹葉には淡彩が、寒気の中、枯木に身をすくめる長尾鳥と枯葦中の野鴨のみは濃彩が施されており、この雪汀荒寒の景色を印象深いものにしている。図中に「羅氏稚川」(白文方印)の印がある。