象牙を轆轤(ろくろ)で挽いて円筒に仕立てたもの。口縁には立ち上がりを設け、甲盛のある円形の蓋と合わせて印籠蓋造(いんろうぶたづくり)とする。それぞれの筒の表面には、鳥獣、草花などの文様が撥鏤の技法で表わされている。
撥鏤は、紅、緑、紺などの色に染めた象牙の表面を、刀で撥ね彫りして文様を描いていく装飾法である。染料が象牙の内部まで浸透しないので、彫った部分だけが、白く素地の色をあらわすことになる。中国唐代に盛んにおこなわれた手法だが、今日では、正倉院宝物と献納宝物中にわずかな遺例をみるにとどまる。