小袖とは袖口を小さく縫い合わせた、袷仕立(あわせじたて)のきもので、表地と裏地の間にうすく真綿が入る。経糸(たていと)に生糸、緯糸(ぬきいと)に練糸(ねりいと)を用いて平織にした練緯地を、肩の部分で大胆に紫の松皮菱形に縫い締め、身頃を紫と白に染め分けている。右裾から力強く太い竹の幹と、若竹とが肩に向かって交差し、若竹の葉が肩と裾に大きく垂れている。竹は匹田絞り、幹や葉は絞りの輪郭に沿って細い墨線によって描き起こされ、一部に描き絵が施されている。紋は丸に三葉葵の五つ紋で絞りと墨線の描き起こしによって表されている。紅地菊桐文摺箔帯が付属品として現存する。付属文書によれば、狂言鷺流の家元が慶長15年(1610)に家康により拝領したという。能狂言を好み、自らも舞ったと記録が残される家康であるから、演能用として誂えた可能性のある小袖と見解を持たれる一領である。