鎌倉時代の公卿・歌人である藤原定家(1162-1241)の日記を『明月記』(別に昭光記)と呼ぶ。その記述は、治承4年(1180)から嘉禎元年(1235)まで56年間の長きにわたる。多くの写本が伝えられるなか、本巻は自筆本である点で貴重である。
長い生涯のなかでは少なからぬ変化をみせる定家の筆跡はさして名筆ともいいがたいが、その負けずぎらいで強情な性格をそのまま反映しているかのような偏癖の多い書風である。しかしながら歌人としての定家の地位が不動となることもあいまって、近世に入ってからは小堀遠州(1579-1647)や松平不昧(1751-1818)のような茶人の尊崇をうけて、その書風はいわゆる「定家流」としてもてはやされた。