盲目の弱法師俊徳丸が、梅の花の咲く四天王寺の庭で、彼岸の落日に向かって極楽浄土を観想する。袖に降りかかる梅の花びらまでも仏の施行と感じる俊徳丸の悟りの境地が主題である。謡曲『弱法師』の1場面を絵画化した作品である。
観山は横浜和田山に住み原三渓(はらさんけい)とは親しい交流があったが、この絵は三渓園内の臥竜梅の木に着想を得て描いた。能に通じていた観山らしく、能面を思わせる面貌とともに能楽的情緒を漂わせている。天心を失った後の観山は自己の芸術を模索しはじめるが、謡曲画題にひとつの活路を見いだしていた。
美術史家滝精一は、当時の新聞評の中で、この作品を観山の近年の傑作であるのみならず大正になって現れた作品の中でも最優品と絶賛した。また、『読売新聞』のXYZこと正宗白鳥はこの作品に対して「新クラシカルの円熟をつげたもの」という興味深い言葉を使って論じている。