国宝蓮唐草蒔絵経箱はすからくさまきえきょうばこ

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  • (指定名称)蓮唐草蒔絵経箱
  • 1合
  • 皮製 漆塗 蒔絵
  • 縦31.8 横17.6 高12.1
  • 平安時代・12世紀
  • 奈良国立博物館
  • 646(工122)

 もと若狭(わかさ)(福井県)小浜(おばま)の神宮寺に伝来した平安時代の経箱で、革を型にあてて成形し、漆を全面に塗布(とふ)して固める漆皮技法によるものである。蓋(ふた)の内外と身の側面を平塵地(へいじんじ)(全面にまばらに金粉をまく)に仕立て、折枝風の蓮唐草文様(はすからくさもんよう)を中心に飛蝶を配した意匠を各面に蒔絵(まきえ)で施している。蓋裏には、表よりはやや疎(まば)らな平塵地に飛蝶をさまざまな姿態に表わしている。蓮華文には内蒔き(輪郭の中に粉を蒔き詰めること)と蒔き分け(粉の色や大きさによって描き分けること)とを併用しているが、蒔絵粉には金と青金(あおきん)の数種類の金粉を用いて、効果的な表現を可能にしている。身の両側面中央には四弁唐花形の紐金具を配しているが、各弁の中を対葉花文(たいようかもん)風(側面から見た葉の形を二枚向かい合わせにしたもの)の透し彫りにするなど、繊細かつ優美な技巧が凝らされている。これら蓮唐草や蝶の意匠は浄土世界を象徴するとの見方もでき、経典を収めるのにふさわしい荘厳といえよう。
 漆皮(しっぴ)技法による経箱は、平安時代後期においては本品が唯一の遺例である。漆皮技法は正倉院宝物に40点を超える事例がみられるほか、京都・東寺(教王護国寺)に伝来した遺品にもみられ、奈良時代を中心に盛行したことがわかるが、平安時代後期以降は次第に衰微していった。本品のように全面に蒔絵装飾を施した例は少なく、漆皮箱の遺例中でも特に貴重である。

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