唐時代の漢詩集写本残篇。巻首と巻尾を失っているため、本来の書名は不明である。作者として初唐から中唐(7世紀~9世紀初め)にかけての詩人・官吏の名前が見え、李嘉祐(りかゆう)・蘇味道(そみどう)・崔峒(さいどう)・張説(ちょうえつ)・孟浩然(もうこうねん)・郎士元(ろうしげん)らによる詩27首を収める。すでに中国でも失われてしまった貴重な詩集であり、現存する部分の内容は僧寺を詠じたものがほとんどである。
清の康熙帝の命により、唐時代の詩をことごとく集めた勅撰詩集『全唐詩』に収録されているものも10余首含まれているが、文字には異同があり、また則天文字も用いられている。書風からは晩唐(9世紀半ば~10世紀初め)に書写されたものと考えられる。
紙背には、平安時代の文学に大きな影響を及ぼした唐の白居易の詩文集で、承和5年(838)に日本へもたらされた記録のある『白氏長慶集』(『白氏文集』)が、藤原行成風の書で書写されている。すなわち、日本に将来された唐詩残篇がいつしか反故にされてしまい、『白氏長慶集』の書写に利用されたことになる。『白氏長慶集』の書写時期については、書風などから平安時代中期(10世紀~11世紀)と考えられるが、通行本と比較すると異同が多く、この写本も、『白氏長慶集』本来の文章を考える上で貴重である。
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