雲形に切り抜いた金銅板の全面には宝相華唐草文を彫り、雲形の脚をゆるやかに折りまげ、脚先に猪目(いのめ)透かしの金具を嵌めて、根来塗の柄を差込んでいる。孫手形の如意が古式であるのに対して、雲形の如意はより形式化された新しい形式のものである。大きく左右が拡がった雲形の渦頭は、内転して細く切り透かし、雲形の表面に宝相華唐草文が配され、周縁には葉状文をめぐらす。背面の雲脚の宝相華文の蹴彫(けりぼり)の鏨(たがね)はとくに冴えており、嵌込んだ鋤金具の両面にも魚々子地に宝相華文が彫られ雲形のゆったりとした形態や、蹴彫ののびやかな曲線に、おおらかな温雅な趣があり、和風化のあとがみられる。なお雲形の表面頭部の猪目形を透かした留め金具や、根来塗の柄は後補である。
雲脚の基部には「施入」「天暦十一年還入養勝院長財」の針書銘があり、紀年銘のある最古の雲形如意であるとともに、数少ない10世紀の工芸品としても貴重なものである。
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