浅井忠(1856~1907)は明治期を代表する洋画家。工部美術学校に入学して、イタリアの画家・フォンタネージに油彩画を学び、自然主義的な画風を身に付ける。この作品は、そうしたフォンタネージの影響を受けながらも、重厚な自然あふれる世界を浅井独自の視点で構成している。前景には早春の麦畑が開け、農夫の家族が農作業に励んでいる。湿り気を含んだ畑の土は黒く軟らかい。背後には藁葺屋根の農家が立ち並び、ところどころには白梅の花が咲き始めている。土の香りの漂うのどかな農村風景を素直にとらえたこの作品は、浅井の初期の作品で、第一回明治美術会展に出品された。明治美術会の中心画家として活躍した浅井は、その後フランスに留学。帰国後は関西洋画壇の重鎮として、多くの後進を育てた。