喜多川歌麿は、浮世絵黄金期と呼ばれる寛政期(1789~1801)を代表する浮世絵師で、市井の美人から吉原の遊女までさまざまな美人の姿態を描いた。「娘日時計」のシリーズは、町娘の生活を辰ノ刻(午前8時頃)から申ノ刻(午後4時頃)まで、一刻(約2時間)ごとに描いた5図の揃い物。「辰ノ刻」の図に朝顔が描かれ、娘の姿が夏姿であることから、夏の生活を描いたものと知られる。江戸時代の時間は、一刻といっても季節によって長さが変わり、夏は日の出から日没までの昼の一刻が長く夜の一刻は短かった。そのため、夏には、辰ノ刻は今の午前7時前に、申ノ刻は午後5時頃に相当した。
このシリーズでは、顔や首の輪郭に主板による墨線を用いず、版の凹凸で表現する無線空摺の技法が用いられている。唇も紅だけで摺り出され、顔は、黄潰しの背景から彫り残されたように浮かび上がって表現された。女性の美しさの表現に苦心した歌麿は、娘の肌に実際にはない濃い墨線を用いることを嫌い柔らかさを表現したかったのだろう。髪の毛の流れるような彫りなど写実的表現に対する歌麿の試みがうかがえる。
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