本図の作者、岳翁は室町時代の山水画様式の典型を作り上げた周文の弟子である。五山派の禅僧、天隠龍沢(てんいんりゅうたく)や了庵桂悟(りょうあんけいご)の賛を有する作例があり、周文(しゅうぶん)と同様に五山派(ごさんは)禅宗寺院に所属する画僧(がそう)であったとみられる。本図に表わされているのは、岳翁の他の作品や、周文筆と伝えられる作例、岳翁と同じく周文の弟子であった松谿(しょうけい)の諸作と同様に、当時の五山僧たちが憧れた、理想化された中国的風景である。岩や樹木といった山水の基本となる描き方をみると、当時山水画の最高のお手本となっていた中国・南宋の夏珪(かけい)に倣(なら)うものである。とくに水辺に臨む家屋は、夏珪を強く想起させるモチーフであり、本図は夏珪の山水画と結びつくことで、理想化された中国風景になっているといってよい。さらに画中の船を操る人物は、船に乗って友人を訪れようとした「子猷訪戴(しゆうほうたい)」の故事を連想させ、詩情を添えている。
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