天狗草紙は鎌倉時代末ころの仏教諸大寺・諸宗派僧侶の慢心や行いの乱れを天狗にたとえて風刺し、その天狗らがついには発心成仏するという物語を描いたもの。当初は慢心を分類し、それぞれに寺院や宗派を割り当てた構成をとっていたとも考えられている。東寺巻は弘法大師よりの真言宗の縁起を述べ、絵は東寺金堂、仁王門、醍醐桜会舞楽の景、高野山の伽藍などが描かれる。延暦寺巻は伝教大師、慈覚大師のことなどを述べ、絵は比叡山の諸堂などを描いている。この東京国立博物館本2巻は、いわば縁起絵であって、延暦寺巻の背後の山や堂塔の間にわずかに天狗の姿が見え隠れする程度で、風刺的場面は見えない。絵は鎌倉後期の正統的なやまと絵の伝統に基づいて着実な筆致で描かれたもので、美術史上貴重なものである。
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