平安時代末期の平治元年(1159)に起こった平治の乱に取材した絵巻。この六波羅行幸巻は、 源義朝(みなもとのよしとも)らに幽閉された二条天皇(にじょうてんのう)が女房姿で内裏をひそかに脱出し、平清盛(たいらのきよもり)の六波羅邸へ逃れる前後の話を全四段に描く。同時代の絵巻に比べ縦幅が大きく、抑制のきいた線描、色鮮やかな彩色が非常に特徴的で、当時最高位の絵師が制作を担ったと考えられる。また、詞書には随所に波打ったような文字が散見され、弘誓院教家(ぐぜいいんのりいえ)(1194~1255)晩年の書風を継承している。豊後日出(ぶんごひじ)藩主木下家に伝わり、松平治郷(まつだいらはるさと)(不味(ふまい)、1751~1818)の頃より出雲松江藩主松平家の所蔵となった。その後、代々松平家に伝わり、昭和6年(1931)、旧国宝に指定され、昭和13年、帝室博物館顧問などを務めた松平直亮(まつだいらなおあき)(1865~1940)氏より帝室博物館に寄贈された。寄贈に際して国宝指定は解除されたが、昭和24年(1949)、旧国宝に再指定され、昭和30年に改めて新国宝に指定された。松平直亮氏による寄贈はNo.44~49の東洋書跡のほか、狩野探幽(かのうたんゆう)筆「飛禽走獣図巻」などが含まれており、東京国立博物館のコレクション充実に果たした役割はきわめて大きい。
(土屋)
『国宝 東京国立博物館のすべて:東京国立博物館創立一五〇年記念 特別展』毎日新聞社他, 2022, p.278, no.9.